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血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

  • 執筆者の写真: 山田悠史
    山田悠史
  • 8月26日
  • 読了時間: 5分
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山田悠史医師の「医者のいらないニュースレター」より。医者のいらないニュースレターの登録はこちらから


「〇〇歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。

そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。


「推定臓器年齢」が予測する未来の病気

研究チームは、血液中に含まれる約3000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。

例えば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。特に、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。

さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。


あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右する

 では、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。

研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。


臓器を「老化」させる習慣

· 喫煙: 多くの臓器の老化と関連していました。

· 過度な飲酒: こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。

· 加工肉の摂取: 日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。

不眠: 睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。


臓器を「若々しく」保つ習慣

· 活発な運動: 特に、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。

· 油の多い魚の摂取: いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。

· 鶏肉の摂取: 赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。

高学歴: 教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。


また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、特に腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。例えば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。


長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?

最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。

分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。

脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。

この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。


参考文献

  1. Oh HSH, Le Guen Y, Rappoport N, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. Published online July 9, 2025:1-9. doi:10.1038/s41591-025-03798-1

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